明智光秀がまだ浪人だった頃、同じ浪人仲間と【汁講:しるこう】というイベントに熱心だったことがあります。汁講とは、当番の人が他の浪人仲間を自宅に呼んで、鍋を振る舞いながら天下の事などを語り合うイベントです。いまでいう鍋パーティーですね。
そしていよいよ光秀の当番がやってきましたが、光秀は他の浪人と比べてとにかく貧しく、とても仲間たちを振る舞うことができません。それを妻の煕子(ひろこ)に言うと、彼女は『お待ち下さい』と言って、数日後、結構なお金を光秀に差し出しました。
こんな金がどこに?と疑問に思った光秀は、次の瞬間、煕子の髪が短くなっていたことに気が付きます。そう、煕子は自分の髪を売って汁講を行うお金に変えたのです。感激した光秀は生涯、側室を持たないと心に決めたのでした。
……ここで終わっておけば私も楽なのですが、最大の疑問が【なぜ煕子さんの髪の毛がお金になったのか?】ということです。
このハナシはずっと昔から知っていましたが、今から約20年前、名古屋市在住の甲冑師に弟子入りした時に謎が解けました。私のマイ甲冑はアルミ製ですが、戦国時代の甲冑から型紙を取って作ったものです。それに漆(うるし)由来の塗料を塗る時に師匠が言ってたつぶやきにヒントがありました。
『昔(戦国時代)のハケは、童女の髪の毛で作っていたのだよ』
これは私の仮説ですが、煕子さんはハケ職人のもとに行き、髪の毛を売ったのではないでしょうか?当時、結婚していて子供もすでに産んでいるくらいの大人だった煕子さんですが、髪の毛はとても美しく、漆のハケに使えるくらいだったので、髪の毛が売れたのではないかと思います。
なんか西洋でも同じ様なハナシがあったと思いますが、ここは煕子さんの美談として締めておくのがオトナというものなのでしょう。